9月のコラム
眠りは健康を守り、不老長寿をもたらす


○眠りのメカニズムが明らかになった
 脳内ホルモンといわれる神経伝達物質の研究がすすみ、「眠り」に対してメラトニンというホルモンが重要な働きをしていることが明らかになってきました。メラトニンは脳にある松果体から分泌され、夜暗くなると分泌が高まり、朝になって明るくなると分泌が減少します。アメリカでの実験によると、十分に睡眠がたりている若者にメラトニンを与えて昼寝させたところ、簡単に寝ついて、しかも深い眠りに入りました。すなわち、メラトニンは眠りに入らせ熟睡させるのに、たいせつな物質であるとわかったのです。
 現在アメリカでは、メラトニンはドラッグストアでも市販されていて、不眠症に悩む人たちが常用しているといいます。そのほか海外旅行をしたときの時差ボケの解消にも効果があり、これを利用している人も少なくありません。副作用もほとんどないといわれますが、我が国ではまだ認可されていません。

○メラトニンの分泌を増やすには
 メラトニンは、同じく脳内ホルモンであるセロトニンを材料にして作られます。セロトニンは心身の興奮や活動をしずめ、休ませるように作用します。つまり、脳の中のセロトニンが増えることによって心身の興奮がしずまり、さらにセロトニンを材料にメラトニンの分泌が増加して、心地よい眠りにいざなわれるというわけです。 ですから、じょうずに眠りに入り熟睡するには、セロトニンやメラトニンの分泌を増やすことがたいせつです。昔から、眠れないときに温かい牛乳を飲むといいといわれますが、実はこれは、セロトニンやメラトニンの分泌を増やすひとつの方法だったのです。
 セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られますが、牛乳にはこのトリプトファンがたくさん含まれているのです。トリプトファンを材料にしてセロトニンやメラトニンの分泌が増えますし、温かい飲み物で心身もリラックスします。また、牛乳に豊富なカルシウムには神経の興奮をしずめ、精神を安定させる作用がありますから、それもまた眠りにつくのを助けるでしょう。
 しかし、動物性のタンパク質をとり過ぎると、他のアミノ酸が邪魔をして、脳に入るトリプトファンを少なくするといわれ、肉類の食べ過ぎは眠りを妨げる原因になります。牛乳のほかトリプトファンを多く含む食品としては、鶏卵、牛レバー、豆腐、人乳(母乳)、調整粉乳(赤ちゃん用粉ミルク)、プロセスチーズなどがあります。

○眠りの妙薬メラトニンは不老長寿の薬でもある
 メラトニンの分泌を高めるためには、精神的にリラックスし、心身の緊張をほぐすこともたいせつです。眠れないときに「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹....」と数えるのも、数えることに意識を集中して、心身をリラックスさせます。時計の刻む音や、雨だれの音、隣に寝ている人の寝息などに、耳をすますのもいい方法です。静かな単調なリズムの音楽を聴くのも結構ですし、市販されている入眠のための音楽や自然の音などのCDやテープをかけるのも、セロトニンやメラトニンの分泌を増やすのに効果があるはずです。このほか、日中は明るいところで過ごす、夜は明りの強いところは避けるなども、メラトニンを増やすのにたいせつといわれます。 ところで、このメラトニンという物質は、不老長寿の薬でもあるといわれています。明らかにされているメラトニンの作用としては、
(1)眠りを起こさせる
(2)生体のリズムを整える
(3)ストレスを緩和する
(4)免疫力を増強する
(5)活性酸素の害をへらす
(6)老化防止
などが挙げられています。ストレスは老化や生活習慣病の重要な原因です。免疫力を高めることでいろいろな病気の予防になるだけでなく、ガンの予防や治療にも役立つのではないかと研究が進められています。活性酸素は動脈硬化をすすめ、老化の重要な原因です。
 メラトニンの分泌は、子どものころに多く、その後しだいに減っていき、50歳を超えると10歳ごろの10分の1以下になります。ですから、これを外から補ってやれば、人類が求めてきた不老長寿の薬になるのではないかといわれるのです。薬として飲むかどうかは別として、このように老化防止や健康増進に役立つメラトニンの分泌を増やすには、ゆっくりと心身を休めて、グッスリよく眠ることがたいせつなようです。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎