12月のコラム
運動不足は生活習慣病を進行させる


○運動不足は心身の能力を衰えさせる
 人間の体というのは、たいへん精巧にできています。その人にとって必要な器官は、必要に応じて働きを維持し、働きや大きさを増強させることもあります。ところが、不必要なところはどんどん退化していって、やせ衰え、機能も低下します。足を骨折してギプスをつけていると、治ったあと、ギプスをはずした足が細くなってしまった経験をおもちの方もあるでしょう。つまり、足を使わずにいたために、骨も細くなるし、筋肉もやせてしまうのです。使わない足は不要なものと認識したわけです。
 ギプスをはめるというのは極端な場合ですが、私たちが日常生活の中で、いわゆる運動不足の状態になっていると、似たような現象が、骨や筋肉だけではなく、全身の臓器や器官にも起こる可能性があるのです。肺などの呼吸器も、心臓・血管・胃腸などの循環器も、胃腸や肝臓などの消化器も、さらには脳の働きも、運動不足の状態がつづくとその働きが低下してくるのです。もちろん、男性の機能にしても同様です。 ですから、日常生活の中での適度な運動というのは、とてもたいせつなのです。

○適度な運動はこれだけの効用がある
(1)呼吸機能を高める....肺の弾力を保ちますし、酸素を取り込む能力を高めます。
(2)心臓の働きを高める....心臓は筋肉のかたまりですから、強い働きをさせれば筋力も強化されますし、予備能力も高まります。
(3)血管の老化を防ぐ....血管の弾力を保ち、高血圧を予防します。適度な運動は善玉コレステロール(HDL)を増やすなど、動脈硬化の予防に役立ちます。
(4)消化器の働きを高める....栄養を消費するので食欲も増しますし、栄養の作り替え作業をしている肝臓の働きも高まります。便秘も改善します。
(5)肥満の防止・解消に役立つ....エネルギー消費が増えますから、肥満の解消や予防にたいせつです。肥満は動脈硬化や高血圧、糖尿病、高尿酸血症の重要な原因ですから、その予防に役立ちます。
(6)自律神経の働きを調整する....自律神経というのは、私たちの意思とは関係なく、身体諸器官を働かせている神経です。ストレスやホルモンなどの作用で働きの乱れることがあるのですが、運動をすると活発に働かなければならないので、乱れが調整されます。
(7)脳の働きを活性化する....運動をすることで、手足その他の運動をつかさどっている大脳の広い範囲が活動を始め、視覚・触覚・聴覚などの感覚神経も働き、ここから取り入れた信号を判断し、いろいろな命令を出すなど、脳が活性化し、老化予防にもなります。
(8)骨を丈夫にし、筋力を強化する....骨折などのけがを防ぎ、腰痛・膝痛・五十肩など、骨や筋肉の痛みを予防します。
(9)ストレス解消に役立つ....運動をすると身体的ストレスがかかります。そのときには心身とも緊張しますが、運動を終えて緊張がゆるむと、精神的緊張もいっしょにほぐれ、心身のストレス解消に役立ちます。
(10)その他....不眠症を解消します。免疫力や自然治癒力が高まり、病気の予防や治療に役立つともいわれます。意欲を高めることで、精神の老化防止や病気の人の回復力を強めます。ホルモンの分泌を高めるなど、男性機能回復や老化防止にも効果があるようです。

○どんな運動をどのくらいすればいいのか?
 もちろん、ジョギングや水泳、テニスなどを行ったり、スポーツジムなどに通うのも結構です。しかし、急に激しい運動をするときは、けがや事故のないように、十分な注意をはらってください。日常生活の中で、次のようなことを実行すれば、十分に運動不足は解消できるはずです。
(1)1日10,000歩以上歩く。歩くときには、歩幅を広く、元気に、早足で。
(2)乗り物はなるべく使わない。マイカーやタクシーには乗らない。1-2階上下への移動は階段を利用する。20分未満の距離は必ず歩く。
(3)こまめに体を動かす。立ち上がって歩く仕事は他人に頼まず自分でする。思いついたらすぐに行動にうつす。
(4)休日は家族そろって、ハイキングなど歩く行楽を。サイクリングも結構。
(5)週に1-2回は、かるく汗をかくような運動を。
なお、高血圧、高脂血症、心臓病、糖尿病、高尿酸血症など病気を持っている人が運動を始めるときは、必ず厚生大臣認定のスポーツ医や指定運動療法施設の指導を受けてください。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎