11月のコラム
疲労は「休養」と「睡眠」を求める体の信号


○要注意の疲れと心配のいらない疲れ
 疲労感というのは、体の不調を知らせるたいせつな信号です。「体の働きが限界に近づいていますよ」あるいは「病気ですよ」と、シグナルを送っているのです。「休みなさい」「睡眠をとりなさい」という、体からの欲求でもあるのです。 しかし、疲れの感じ方には個人差があって、客観的に測定することはなかなか困難です。そのため、疲れを知らずに働いていた人が、ある日突然、過労のために倒れてしまったり、たいして働いてもいないのに、すぐに疲れたといって、怠け者と見られている人もいます。また、時間的な制限のない仕事だと、なんとなく疲れを感じて能率があがらなかったりしますが、期限が迫って否応なしに仕事にとりかかると、さっきまでの疲労感がどこかへ飛んでいってしまうこともあります。 疲れというのは、このようにとらえどころのないところがあり、また「忙しいのに疲れたなんていっていられない」といった事情もあったりして、ほんとうに疲れているのかどうかの見極めはむずかしいところがあります。しかし、知らず知らずのうちにたまった疲れが、生活習慣病の原因や発病の引き金になるのです。
 疲れの見分け方としては、「休養をとっても治らない疲れ」「一晩眠っても翌日に残る疲れ」は要注意とされます。つまり、「長引く疲労感」というのは注意信号なのです。仕事に集中したら忘れてしまったという疲れは、心配のいらない疲れといえます。

○疲れは病気を知らせる注意信号
 休養や睡眠をとっても残る疲れがあるときは、病気であると考えて、まず医師の診察をうけてください。疲労感を訴える主な病気としては、肝臓病、腎臓病、貧血、白血病、結核、糖尿病、脚気(ビタミンB1欠乏症)、甲状腺機能亢進症・低下症、急性感染症(カゼなど)があげられます。
 精神的な原因によって起こる疲労感もあります。たとえば、朝起きたときに、疲れは完全にぬけているかなと、体のことを意識すると、どこかに疲れが残っているような感じがするものです。ところが、いざ出勤して仕事をはじめると、いつの間にか疲れなんか忘れてしまいます。 しかし、人によっては、どうしても疲れが頭からはなれず、仕事にも趣味にも打ち込めないという状態になります。これは、神経症(ノイローゼ)と呼ばれるもので、完全主義者や真面目人間に起こります。また、悩みや不安、恐れ、悲しみなどの精神的なトラブルがあるために、疲労感がぬけないということもあります。「うつ病」など精神病のこともあります。医師の診察をうけて、身体的な原因がないのに、疲労感がつづくというときには、精神神経科や心身症外来などで診察をうけてください。 このほか、原因不明の疲労感を訴える、「慢性疲労症候群(CFS)」といった病気が新たに認定されています。

○疲れの積み重ねが生活習慣病の原因になる
 私たちは、朝起きると、睡眠中に貯えたエネルギーを使って活動をはじめますが、夕方仕事が一段落するころには、そのエネルギーを使い果たし、活動のために生じた老廃物が体にたまります。その状態を知らせるのが疲労感です。ですから、疲れを感じたら活動をやめて休養をとり、明日のエネルギーを貯えるために十分な睡眠をとらなくてはなりません。 もしも、疲労を感じているにもかかわらず、夜おそくまで仕事をしたり、アルコールやマージャンなどで午前様になったりすると、老廃物の処理が不十分で、エネルギー補充も不足しますから、結果は推して知るべしです。1-2日はなんとかなっても、やがては健康をそこねます。そして、休養や睡眠が不十分な生活習慣が、生活習慣病の原因になるのです。「疲れ知らずに働く」「疲れを乗り越えて頑張る」ということもときには必要ですが、限度があります。疲れたときには、休養や睡眠をとって元気を回復し、疲労をためないようにするのが、健康法の基本です。 そして、休養というのは、文字を見ればわかるように、「休む」ことと「養う」ことなのです。単に心身を休めるだけでなく、養うことも必要です。まず、栄養バランスのとれた食事と適度な運動をして体を養うとともに、趣味に打ち込む、豊かな自然にふれる、家族や親しい人たちとの交流をたのしむ、ボランティア活動に参加するなど、心の面を養うことも忘れないでください。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎