8月のコラム
「胃炎・胃潰瘍・胃ガン」予防にも生活習慣が大切


 胃炎や胃潰瘍などの胃の病気は、厚生省が言うところの生活習慣病には含まれていません。しかし、胃炎も胃潰瘍も胃ガン(ガンは生活習慣病に含まれる)も、生活習慣が重要な原因になっており、その予防や治療には生活上の注意がとても大切です。

○急性胃炎と慢性胃炎
 急性胃炎は食べすぎや飲みすぎをしたり、バイ菌の繁殖した飲食物を食べたときに、胃粘膜に炎症をおこす病気で、吐き気や嘔吐、胃痛などの症状が出ます。慢性胃炎は、胃もたれ、胸やけ、胃痛、げっぷ、吐き気、胃の不快感などの胃の症状が慢性的に続くものを言いますが、病気そのものの実態もまだ十分解明されていません。
 慢性胃炎の人を調べると、胃の粘膜が萎縮していて、胃液の分泌が少なく、胃の働きも低下している例が多いのです。これを萎縮性胃炎と言います。また、胃がだらんとして力がなく下垂している人も少なくありません。胃に入ってきた食べ物を送りだす力が弱いために、胃もたれなどの症状が出やすくなります。昔は胃下垂症という病名が使われました。胃粘膜の萎縮がかなり進行していても、あるいは胃が下垂していても症状の出ない人もあり、症状がなければ慢性胃炎とは言いません。
 慢性胃炎の原因としては、暴飲暴食などによる胃炎の繰り返し、タバコや薬物の刺激、精神的ストレス、栄養不足、全身病、老化などがあげられます。そして、これらが重なりあって起こる場合が多く、生活習慣が深く関与しているのです。
 慢性胃炎の改善や予防には、暴飲暴食をさけ、ストレスをためないといった日常生活の注意が大切です。萎縮性胃炎や胃下垂のある人は、丈夫な胃袋をとりもどそうとしても、それは無理です。不摂生をさけるとともに、消化薬や健胃薬の助けを借りながら、食生活を楽しむようにしましょう。胃の弱い人は一般に長生きであると言われます。消化のよくない動物脂肪はさけるようにするし、食べすぎて肥満になることも少ないので、動脈硬化になりにくいためと考えられます。

○胃潰瘍と十二指腸潰瘍
 胃潰瘍というのは、自分の胃液の作用で胃壁が障害を起こしてしまう病気です。胃液というのは食べた肉などを溶かす強力な消化力がありますから、タンパク質でできている胃壁を消化してあたりまえなのです。しかし、我々の胃が消化されずにいるのは、胃液の攻撃を防ぐ防御システムが胃粘膜にそなわっているからです。ところが、何らかの原因で、胃液の分泌が多くなりすぎたり、防御システムの働きが低下したりすると、胃壁が障害を起こして胃潰瘍になるのです。これが十二指腸で起これば十二指腸潰瘍です。
 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因としてもっとも重視されているのがストレスです。精神的あるいは肉体的ストレスが加わると、自律神経の働きに変調が起こって、胃液の分泌が増加したり、胃粘膜の血液循環の低下や胃壁がおおう粘液の分泌の減少などが起こり、攻撃と防御のバランスがくずれて潰瘍になるのです。この他、食事の不摂生、飲酒、タバコなども原因になるとされていて、予防にはそれらをさけることが大切です。

○胃ガン
 胃ガンの予防のためには、食生活がとても重要です。その1つが塩です。沖縄をはじめとする塩の摂取量の少ない地域では胃ガンが少なく、東北地方など塩の摂取量の多いところでは、胃ガンの発生が多いという調査報告があります。高血圧の予防や治療に塩の摂取をへらしなさいと言われますが、これは胃ガンの予防のためにも大切です。
 熱い飲食物を飲み込んだり、魚や肉の焼けこげを食べるのは、胃ガンの原因とされます。そうしたことをさけるとともに、野菜や果物をたくさん食べるようにしましょう。野菜(とくにキノコ、海藻、緑黄色野菜)や果物には、発ガンを予防する成分がいろいろと含まれていて、胃ガンだけでなく他のガンの予防にも役立ちます。

○ピロリ菌について
 最近の研究で、胃の中に住みつくピロリ菌(正しくはヘリコバクター・ピロリ)が、胃炎や胃・十二指腸潰瘍、さらには胃ガンの原因になると言われています。まだ研究中で不明の点も多いのですが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍についてはとくに関係が深く、ピロリ菌を退治してしまうと再発率がぐんと下がることがわかっています。潰瘍を繰り返すような人は、ピロリ菌の検査を受けてみることも必要でしょう。ただし、現段階では健康保険での検査や治療は受けられません。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎