2月のコラム
「肉」も食べ方しだいで毒にも薬にもなる


○日本人の長寿は「肉」で作られた
 今、我が国は世界一の長寿国です。日本人がこのように長生きできるようになった理由はいくつかありますが、その中でも重要なのが、肉類をよく食べるようになったことです。
 日本人の死因の推移を見ると、昭和26年-55年の30年間は、脳卒中が第1位を占めていました。この脳卒中も、昭和45年をピークに減少しはじめ、昭和56年にはガンに、昭和60年には心臓病に追い越されて、第3位になりました。脳卒中は、脳の血管が破れる脳出血と、脳の血管が詰まる脳梗塞とに大別されますが、死因の1位を占めていた頃は、圧倒的に脳出血が多かったのです。この脳出血の減少が、日本人に長寿をもたらしました。 統計を見ても、脳卒中の減少に反比例して、長寿者が増加しています。
 一方、国民栄養調査を見ると、日本人の肉類の摂取量(1人1日当たり)は、昭和30年はわずか12gだったのが、昭和40年には30g、昭和50年には64g、昭和60年には72gと、急上昇しています。すなわち、日本人の肉の消費量が増えるに従って、脳出血が減少して寿命が延びたのです。

○なぜ肉で脳卒中が減ったのか?
 脳出血の重要な原因は、タンパク質の不足と、食塩のとりすぎでした。もともと、日本人の食生活は、味噌汁や漬け物などの塩辛いものをおかずにして、ご飯でお腹を膨らませるというものでした。魚、肉、卵などのタンパク質を多く含んだ食品が不足していたため、タンパク質を必要とする血管が、固く、もろく、破れやすかったのです。加えて、塩幸いもので塩の摂取が多くなり、それが高血圧をひきおこし、弱い血管に圧力をかけるものですから、脳の血管が破れ、脳出血で倒れる人が多かったのです。
 肉を食べるようになって、タンパク質の摂取量が増えました。特に、日本人は大豆製品や米、そばなどから、植物タンパクを主にとっていましたから、不足していた動物性タンパク質をとることで、タンパク質を構成しているアミノ酸のバランスがよくなりました。その結果、血管に弾力ができて丈夫になりました。血管に弾力があれば血圧も上がりにくく、少しぐらい上昇しても破れることはなくなりました。 さらに、タンパク質には余分な塩の排泄を促進して、塩のとりすぎによる高血圧を予防する作用もあります。また、動物性タンパクに多く含まれる、メチオニンなどの含硫アミノ酸(硫黄を含んだアミノ酸)には、神経に作用して血圧を下げる働きのあることも、最近の研究で明らかにされています。

○体によい肉も食べすぎれば害になる
 さて、肉の主成分であるタンパク質は、私たちの体を作る材料となります。筋肉や血液、いろいろな臓器を作るほか、体の働きに欠かせない、ホルモンや酵素を作るもとになります。したがって、成長期の子どもたちは十分にとる必要がありますし、中高年になっても、体を維持し老化を防ぐために、不足しないように心がけなくてはなりません。
 肉の中でも豚肉は、ビタミンB1が豊富です。ビタミンB1は、エネルギーを作るときに重要な役割をする他、脳や神経の働きに欠かせません。特に、お酒をよく飲む人は、アルコールの処理にビタミンBが使われ不足しますから、酒の肴には豚肉の料理を食べるようにするといいでしょう。外食の多い若者や大酒飲みに、かくれたビタミンB1不足がいるのではないかと言われています。とんかつ1枚で、ほぼ1日分の必要量が補給できます。 しかし、肉は食べすぎると害もひきおこします。肉は日本人に長寿をもたらしてくれましたが、一方ではまた、心筋梗塞などの心臓病や、脳卒中のうちの脳梗塞などを増やす原因にもなっているのです。肉に含まれる動物性脂肪をとりすぎると、動脈硬化を進めるからです。
 現在、日本人は1日平均約75gの肉を食べています。成人の場合、理想的には50-60gですから、やや多いのです。タンパク質を多く含む食品には、肉の他に、魚介、卵、チーズ、大豆製品などがありますから、肉類ばかりに偏らないで、それらを組み合わせていろいろな食品を食べるようにしたいものです。魚や大豆に含まれる油は、動物性脂肪とは違って動脈硬化を防ぐ働きがあるのです。鶏肉には、動脈硬化によくない動物性脂肪が、牛肉や豚肉に比べると少ないので、これも上手に利用すると良いでしょう。また、野菜をたくさん食べれば、食物繊維などが肉の害を減らしてくれます。

C コハシ文春ビル診療所 院長 小橋 隆一郎